お知らせとレポート

自然資本を重視し、自然エネルギーだけで
発電するコスタリカ

そらべあ基金理事の箕輪弥生さんが昨年の初夏にコスタリカを訪れました。その時の様子を2回のシリーズに分けてお伝えします。今回のレポートは第2弾になります。

第1弾のレポート、「世界で最も幸せな国」コスタリカの小学校を訪問はこちらから


 
コスタリカレポートその2 (そらべあ基金理事 箕輪弥生)

コスタリカの小学校を訪問した前回のレポートに続き、自然エネルギー100%で発電し、森を守り生物多様性が豊かなコスタリカの現状とその背景をレポートします。

 

■再生可能エネルギーだけでほぼ100%発電

 

水力発電のために造られたアレナル湖。遠くにアレナル火山が見える

 

軍隊を持たず教育を重視する平和国家コスタリカのもうひとつの大きな特徴は、環境面でも先進国だということです。電力はここ5年、98%以上を再生可能エネルギーでまかなっています。首都サンホセの郊外に一歩出ると、風車がそこかしこに見られます。

主要な発電源は水力で、国内電力需要の約74%を供給しており、次いで風力(16%)、火山地帯の地熱エネルギー(8%)と続きます。バスで通りかかったアレナル湖は、コスタリカのシンボルでもあるアレナル火山のふもとにありますが、この湖は1979年に水力発電のためにダムを造り広さが3倍になりました。

注目すべきはもちろん電力をカーボンフリーにしていることだけでなく、その電源構成と考え方です。主力となる水力発電は、雨季と乾季がはっきりしているコスタリカの場合、乾季の終わり頃になると水が不足することがあります。それを補うベース電源として地熱発電を位置付けています。地熱は年間を通じて供給が最も安定しているからです。

つまりベースロード電源が地熱、それを補うものとして水力と風力をとらえ、火力発電はあくまで緊急時のバックアップ電源です。石炭火力発電、原子力発電をベースロード電源としている日本とは全く逆の発想と言えるかもしれません。

■コスタリカはカーボンフリー、プラスチックフリーへ

 

コスタリカでの挨拶は「Pura Vida(プーラビーダ)」。「どんな状況でも、今を幸せに生きていこう」という意味も。(首都サンホセ中心部)

 

コスタリカがその先に見据えているのが脱炭素化とプラスチックフリーです。2018年5月にコスタリカは化石燃料の使用をやめ、世界初のカーボンフリー国家となると宣言しました。また、2017年には使い捨てのプラスチックの使用を廃止すると発表しました。

カーボンフリーへ向けた道筋としては2019年2月には公共交通システムの脱炭素化や自家用車のゼロ・エミッション化、建築物の低炭素化、牧畜業における温室効果ガスの削減など将来達成すべき10の目標を示しました。

中米で最も豊かな国となったコスタリカの課題のひとつがガソリン車など交通からの炭素排出です。確かに首都サンホセ周辺の主要道路は渋滞がひどく、カーボンフリーへの道筋は厳しいように見えます。

しかし、コスタリカはこれまでも難しいとされる課題に対してまず宣言し、それを実行してきました。中米の貧しい国だったコスタリカが環境・エネルギー政策でも世界をリードする持続可能国家になってきたのは対外的な発信のうまさ、そして野心的な政策による部分も大きいのです。

たとえば、気候変動対策への国際的枠組みである「パリ協定」の締結の立役者がコスタリカの女性、クリスティアーナ・フィゲーレスであることをご存知でしょうか。クリスティーナはコスタリカの常備軍を廃止したホセ・フィゲーレス・フェレール元大統領を父親に持ち、気候変動枠組条約の事務局長を6年務め、パリ協定の合意を成し遂げました。2世代にわたって野心的な政策を実現してきているのです。

■エコツーリズムを推進する生物多様性のパラダイス

 

モンテベルデの自然保護区には熱帯雲霧林を歩くさまざまなコースがある

 

さて、コスタリカの主要産業のひとつに5割を占める観光業があります。同国はエコツーリズム発祥の地としても有名で世界各国からその自然の豊かさを体験したいと願うツーリストが集まります。

そのひとつ、コスタリカのエコツーリズムの聖地と呼ばれるモンテベルデの自然保護区を歩きました。ここは熱帯雲霧林という霧が立ち込めるユニークな密林です。

苔やシダ類、ランなどの着生植物で覆われた樹木の合間を縫うトレイルに入ってすぐ、手塚治虫氏の「火の鳥」のモチーフになったというケツァールの鳴き声にガイドさんが気付きました。そして幸運にも美しいケツァールの姿を見ることができました。

 

アステカ神話の文化神・農耕神とされたケツァール

 

ケツァールは古代のマヤ人やアステカ人が神聖な鳥として崇拝する希少な鳥ですが、その数は減少し絶滅の危機に瀕しています。ここモンテベルデは自然保護区としてその生育環境を守っています。

コスタリカを旅すると、熱帯雨林から熱帯雲霧林、そして海から高地まで多彩な自然の中に豊かな生態系が息づいていることに驚きます。九州と四国を合わせたほどの広さの国土に地球上の生物多様性の5%を占めるほど豊かな生態系があるコスタリカは、国土の4分の1が自然保護区として管理されています。

 

 

樹上で生活するナマケモノ。保護施設も国内にある

 

生物はもちろんケツァールだけでなく、日本で見られないさまざまな鳥類、爬虫類、昆虫、動物を見ることができます。世界の鳥類の10%(903種類)が生息するなど、まさに生物多様性のパラダイスです。

■すべての経済基盤は自然資本から

 

世界最小の鳥ハチドリも数多くの種類が見られる

 

しかし、このような豊かな自然にもこれまでの危機がなかったわけではありません。1980年代には年間5万ヘクタールの森林が伐採されたといいます。コスタリカでは今日、国土の5割以上を森林が占めています。しかし1987年当時は、現在の半分以下のわずか21%でした。

その森林破壊を止め、回復されたのが1996年に制定された先駆的な生態系サービスへの支払い(PES)の取り組みです。これは森林を守るとその生態系サービスへの支払いがされるプログラムで、森林を牛の飼育や単一作物の栽培のために開墾することを違法化しました。そしてそのPESの支払いの資金にあてたのがガソリンなどの化石燃料の消費への課税です。森林回復の資金に充てるためにガソリンの使用に特別税を課したのは世界で初の試みでした。

背景には、コスタリカではすべての経済的基盤は健全な生態系(自然資本)からもたらされるという理解が根本にあります。生態系の価値を認め、それを政策に活かすことによって森林が再生してきたのです。そして森林の育成は、温室効果ガスの削減にも根本的な役割を果たしています。

 

20年前に比べてどのように森が回復したか説明する看板(ダナウスの森にて)

 

訪れた森の中には、どのように森が再生したのかを伝える看板などもあり、コスタリカの自然を市民が意思をもって再生していることがわかりました。もちろん自然保護区の入場料なども地元の雇用促進や環境保護に使われます。

平和国家から持続可能国家へ、コスタリカの豊かな自然や教育システムを見ると、それはトップの明確な判断と政策があり、それを市民が共有し実現していくというプロセスが見えます。中米の貧しい小国だったコスタリカが世界でも注目を集める国になった理由の中には、日本が足りないものがたくさんあるような気がしました。